2013年1月16日水曜日

団地の風景


子供の時、大阪府枚方市の招提団地に住んでいました。
団地での毎日は僕の原風景。



枚方市は大阪のベッドタウンとして大阪万博以降急速に人口の流入が多くなり、府政の下、住宅戸数の確保が急がれ、各地で同じような規格の団地がたくさん建設されていました。
招提団地はそういった物の一つです。

小学生の頃、同じ団地内の友達の家に行くと、自分の家と間取りはまったく同じなのに、部屋の使い方や置いてある家具、窓から見える景色は自分の馴染んでいるものとちがう少し浮遊感にも似た感覚を味わいました。
基本構成はまったく同じ空間なのにその上になされる生活が家ごとにまったくちがうのは(時に家によっては間取りそのものが左右対称だったり…。)子ども心に不思議な差異を感じる空間体験として今でも心に強く残っています。

当時建設された団地は「質より量」という側面があり、快適さの優先度は少し見劣りしがちなのですが、建設費用の経済性やより空間を効率的に使うという観点においてある種極まった優れた設計がなされています。
30年以上の時間を経て当時の生活を思い出してみると今現在住まいに求められている「身の丈に合わせてシンプルに、コンパクトに、住む」というニーズにぴったり当てはまる部分もたくさんあり、建築を設計する上でそこから学びとれることも多いです。

世界一美しい団地図鑑 (エクスナレッジムック)
内田 青蔵
エクスナレッジ
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…そんなことを頭のどこかに置きっぱなしにしていたまま、偶然本屋で見かけたので衝動的にこの「世界一美しい団地図鑑」を買い求めました。
団地の先駆、1927年の「同潤会代官山アパート」から今をときめく最先端の建築家がよってたかって設計した2005年の「東雲キャナルコートCODAN」まで実例の紹介による「団地」の歴史、すなわち昭和から平成にかけての日本人の家に対する考え方の変遷が郷愁もただよう写真含めて心に染みます。
ここ数十年の集合住宅の歴史においてエレベータによる縦方向移動の利便性アップと空調設置が主流になる以前と以後で、まったく平面計画が変化しています。
エレベータや空調設備による利便性の確保は、各住戸の基本的な自然通風や採光を損なう一面もあり必ずしも生活空間の質の底上げに結びついていないことは大きな発見でした。

またこの本は日本各地の代表的な団地住戸の間取り図実例やきれいな写真も多く掲載されていています。
そのため一戸建て住宅のプランを練る際にもなるべくお金をかけないように贅肉をそぎ落としてシンプルかつコンパクトで最大限広さを感じられる家をつくるためのヒントがたくさん読み取れます。
建物の基本的な構成を安価でコンパクトにすることが出来れば小さな敷地でのいわゆる狭小住宅の建築や、窓をより大きくして外光・通風をたくさん取り入れたり、家具に予算を多く割り振ったり、手触りの良い上質な壁素材を使ったりと家を作っていく上で選択の幅を広げることにつながります。

団地に縁のなかった方でも”家をつくりたい”と考えるすべての人のためになる良い本です。

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